インテリア

　暗くて無機質な印象の漂う、あまりにも美しく整序された室内インテリアの冷たさに寒々とする。

　この映画にはオリジナルな面白さや新しいテーマ性を感じない。確かにもう30年近く前の作品だから、新しさがないのは仕方がないのかも。ただし、非常にうまく作ってあるし、台詞は練られている。畳み掛けるような会話の緊迫感もいい。このまま舞台劇になりそうな会話なのだ。けれど、心を動かされることがない。ストーリーと同じく、映画そのものが美しく整序され、観客を寄せ付けない冷たさに満ちている。

　わたしにとっては誰も共感できない人物ばかり。完璧主義者の母親はもちろん、父の愛人の肉感的な下品さもいやだし、功名を焦る作家の野心もいやだし、芸術への情熱に見合うだけの才能を持たない次女ジョーイの苛立ちもいやだ。

　いや、実は彼らの苛立ちも焦りもすごくわかるのだ。理解できてしまうだけに、なんだか痛い。痛々しくて、とりわけジョーイが「才能に見放されている自分」「母の期待に応えられない自分」を自嘲するところなんて他人事とは思えない。

　インテリ一家の会話は高い教養に満ちていて、そこに闖入する父の「愛人」が浮いている。だが、その愛人のバイタリティは彼女たちが持っていないものだ。繊細な母親と対極にあるかのような女性になぜ父親が惹かれたのか、娘たちは理解できないのだが、その反応はまちまちだ。母への愛憎の深さの違いによってまた、この父の新しい妻への気持ちも複雑なものとなる。

　ラストシーンの暗さもまた格別だけれど、実はここにはある「救い」がある。こういう形でしか救いがないという宣告をウディ・アレンはあえてつきつけた。そのシニカルな意図に呆然とするばかり。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

もしかしたら、数あるアレン作品の中で、いちばんこころに滲みた作品かも。なあんて思うわたしは暗いなあ。

わたしの母が、ここに登場する母親にどこか重なる部分があって、自分も娘という立場だから、より実感するのかも。

四角四面。やることなすこと完璧。１ミリでも、自分の頭にある図からずれると、もう許せない。インテリア。ベージュとグレーの、落ち着いたトーン。骨董品店から選りすぐってきた青磁の花器。でも、どこか完璧すぎて、スキがなくて、息が詰まる。窒息しそう。リラックスできない。

そして、その完璧を、家族にまで求める。インテリアをひとつひとつ自分の求めるままに配置するように。家族も、こうあるべき彼女の形に仕立てる。

そんな母親の元で育った３姉妹。よき夫を演じてきた夫。でも、３姉妹が独立し、一応の家族の形が一段落ついたところで、夫が、自分に求められた役割を放棄する。そこから、がらがらと、不安定だった家族の形が崩壊していき、母自身もがらがらと音をたてて崩れていく。その様を丹念に描く。

父が新しいパートナーを娘たちに紹介する。新しいパートナーは、母親と正反対。おおらかで、ほがらかで、許容してくれる。だれともうちとけるざっくばらんさ。母親が陰なら、新しいパートナーは陽。やわらかいもの。かたいもの。母に特に感化されてきた次女ジョーイは、母親と正反対の女性を連れて、自分の知らなかった一面をみせる父親に戸惑う。そして、イライラする。その頂点。白く美しい花器が床に落ち、ぱりんと割れた時に沸騰する。

家族の、どうしようもないつながり。親子の姉妹の。認めたくなくても、認めざるをえない部分。

ジョンウォータースが恥ずかしながら好きな映画として挙げている一本。過剰に取り澄ました一家はまるでピンクフラミンゴのディヴァイン一家のよう。そうすると再婚相手は一人だけどマーブル兄妹って事ですね。そう考えると無性に笑えます。

真面目に見ると、人を愛する事と支配する事は違うという事を９０分かけてみっちり教えてもらえる傑作映画です。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

赤の他人ととりあえず波風たたぬような関係を保とうとすればおべんちゃらをいうことは無いにしても相手にダメージをあたえるような言葉を慎むのは不文律としてある、しかし良きことも悪しきことも含んだ利害関係そのものの家族間ではその不文律が意識されなくなってしまうこともあるかもしれません。
そうなるとこの『インテリア』のような恐ろしい顛末をまねくこともあるか、しかしイヤなお話だなぁ冷たい感触の調度品も好きではないし。

次女は殺人者に等しい愚かさだ、この次女をアレンは荒れ狂う海の中で（決死の撮影か）殺人（？）の罪により死刑を執行したようにみえるのにラストでは３人姉妹の中で一番穏やかな表情を与えているのです。この解釈は理解できないのですが。
病んだ心を持つ母を残酷に追い詰めた罪を、次女は生涯かけて償わなければならないとわたしはおもいましたが。

これでは救済にはならない、人の罪言い換えればエゴイズムにあまりに甘く最後に至ってぽかんとしました。

厳しく生きる人。と、楽しく生きる人。哀しさも、弱さも、美しさも。