無能の人

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「無能の人」はなかなかいいぞ。とても丹念に作られているし、構図や編集もばっちり決まっている。気持ちが入りすぎと言うか、狙いすぎのシーンがしばしば出て来てそれが逆に気になってしまうのだが、そのシーン自体は決して悪くはないので許してしまおうという気持ちになる。ただ、風吹ジュンの演技をしない演技がとても不自然で浮き上がっていた。竹中直人と風吹ジュンの息子役の子供を筆頭に、マルセ太郎、いとうせいこう、神代辰巳らのそうそうたるメンバーが不自然な自然さをとても自然に演じていたためその落差がとても気持ち悪かった。どうも「演技派」と言われる役者は皆不自然な自然さを自然な不自然さと勘違いしてしまうようだ。
なお、神戸浩という役者の気持ちの悪い演技が大変興味深く感じた。演技といい台詞わましと言いわざとらしいほどの気色の悪さを出しているのだが、それがとても板に付いておりまさしく非常に自然なのだ。程度(レベル)や味わいは全く違うのだけれども、ミシェル・シモンの怪優ぶりと通ずるものを感じた。

構図、ストーリーもそうだが、無常の世界に生きるつげの世界を映像化できていると思う。竹中直人やるなあ。
監督独自の解釈もなく、原作を忠実に再現した作品であるので漫画読んでりゃいいかと思いそうだが、ここまで内面的な部分を映像化できているのにはまた微妙に違った感動がある。

無能の人を自分に照らし合わせて観てしまう自分にはとても心に響きます。
そこには無能と思いながらも世の中がアホなんだと思う偏屈な心もあり、苦しいことを避けて楽できる人生を妄想し考え、それは石屋などの逃避に近い行動となり、結果現実はさらに辛くなるという無常の世界ができてしまう。
それで、ひたすら暗くなるのではなく、楽観的な世界も残されてあるので、一方に振り切れない感情がなんともリアリティがあり良い映画になっている。7.5/10

「心がチクチク痛いよ」と歌うゴンチチの歌がとても良いです。タイトル通り、無能な変人が次々と出てくるのですが、竹中直人はもちろん、マルセ太郎はじめ脇役に至るまで登場人物の存在感がすごいです。出てくるだけで画面に引きつけられるような力があります。役者や芸人たちの年月を経た臭みをよく生かしていると思います。休日にアルバトロス作品ばかり見て過ごしている私もたぶん無能の人なのでしょうが、そういった人たちにはホントに心にしみる映画です。主人公は石を売って暮らしていますが、ああいう世界もとても分かる気がします。もうずいぶん前ですが、秩父にある秩父珍石館にも行きました。やっぱり侘びしくて、この映画のムードと同じものを感じました。ある種の諦念と、悟りきれない惨めさと、生きることの面白さと辛さがしみじみと描かれた傑作だと思います。

　竹中直人は監督もされているのですね。初めて観ました。役者としてのユニークさそのままに、物語もコミカルさがあって、皮肉めいたところも感じました。
　主人公の助川は漫画家としての資質が持ちながら、生活の糧はなぜか石屋とか渡し場とか、儲かりそうもない仕事ばかりを選んでいる。きっと漫画の夢を失いたくないから、敢えてそうしているのかなと思いました。
　”無能”という言葉は、社会から外れている、あるいは取り柄がないなど、侮辱的に捉えられますが、一方ではなかなか良い響きだなと感じます。有能を目指すがために束縛されることも多い中、”無能”ゆえの反社会性や流浪さは自由な感じで魅力的。
　風吹ジュンに”役立たずで無能よね”などと言われたらゾクッとします。これは別な意味の気もしますが・・・。なので旅館の風呂場シーンはなかなか良かったです。助川のように意志をもって無能にはなれそうもありません。
　友情出演で若かりし日のミュージシャンや俳優が多数出ているようです。私は井上陽水だけ気がつきましたが、なかなか面白いですね。つげ義春の漫画も読んでみたいです。★★★

竹中直人は本当に個性が強い。
良くもあり、悪くもある。
彼の監督作は基本的に好感がもてる。
本作も丁寧な演出がされています。

竹中直人の他作品でお薦めは
アラーキー原作の
『東京日和』です。