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■DISCAS INTERVIEW■ あの人は、どんな映画を選ぶんだろう。 | 第3回
蛭子能収さん(漫画家)「観終わった瞬間に忘れるんですよォ(笑)」 蛭子能収さん

覚えられない男…
  ―― まずは、『黙秘』ですが、これは思い入れがあるようですね。
 
蛭子

『黙秘』は、テレビ朝日『虎の門』の「ビデオでも見ましょうか?」のコーナー※1 で見たんですよ。そこで、俺が初めて五つ星つけたビデオなのに、まだ放送されていないみたいだなぁ。初めて五つ星つけた映画だったのに…。
 
――

『虎の門』と言えば、過去の放送で、『鬼が来た!』の後半部分に、
五つ星をつけてましたね。
 
蛭子

そうなんですよ。『鬼が来た!』は、前半後半で、ガラッと変わりましたよね。前半は、変にテンションが高くて、ついていけなかったんですよ。そしたら後半、すごく恐ろしいストーリー展開になって…。だから平均すると三つ星ですね(笑)。おもしろかったですけど、日本人が観たらちょっと引くかもしれませんね。
 
――

で、肝心の『黙秘』なんですが(笑)。
 
蛭子

えっと…これどういう映画だったっけ? 忘れちゃった(笑)。
キャシー・ベイツがね、最初、悪い風に描かれているんですけど、だんだん良い人になっていくんですよ。で、ちょっと涙が出るんですけど…。あれ? ストーリーまったく忘れちゃったよ〜(笑)。
 
――

では、印象に残っているシーンは?
 
蛭子

う〜ん…とにかく、キャシー・ベイツが悪い女なんですけども…。
 
マネージャー氏  娘のお父さんを殺したんですよね…。
(と、マネージャー氏による解説がしばし続く)
 
蛭子

よく覚えてるね。もっと言って! 最後どうなったっけ?
 
マネージャー氏  船の上か何かで全てが解決したと思いますけど…。
 
蛭子

…観るしかないですね(笑)。
とにかくね。チャラチャラしてないストーリーで、ドキドキさせながらも、ちゃんとリアルに描いてたから素晴らしいんですよ。
…じゃあ『黙秘』はこれぐらいで(笑)。黙秘っていうぐらいだから、黙って観るべき(笑)。
 
――

続いての『昼顔』は、主演のカトリーヌ・ドヌーブが良いと?
 
蛭子

カトリーヌ・ドヌーブが、昼は貴婦人みたいな生活をしてて、夜は娼婦になるというのがショッキングでね〜。
 
――

いや、昼に娼婦になるんですよ。
 
蛭子

えっ? そうだったっけ? 昼に娼婦になるんだっけ? だから『昼顔』か? ゴメン(笑)。
これ観たの35年ぐらい前だから、あんまり覚えてないんだよ(笑)。
なんか妄想の中のエロスとか、芸術っぽい映画でしょ。だからこういうのもチョっと今回選んでみました(笑)。
 
――

当時は何をされてたんですか?
 
蛭子

長崎で看板屋に勤めてたんです。
この頃、芸術映画をよく観てたんですよ。 ルイス・ブニュエルとかゴダールとか。その中のひとつですね。あと、この時期、ロマン・ポランスキーの『反撥』も観たんですけど、これも、カトリーヌ・ドヌーブのデビュー作でいいんですよ。
 
――

映画は若い頃からお好きだったんですか?
 
蛭子

そうね。ゴジラとか裕次郎シリーズとか…、でもいちばん好きなのはサスペンス映画かな。『見知らぬ乗客』ヒッチコックとか。
 
――

芸術映画をたくさん観られていて、それが漫画に影響してることはあります?
 
蛭子

それは充分あると思います。映画の世界では、芸術映画ってたくさんありましたけど、漫画の世界では、そんなことありえないって思ってたんですよ。漫画は、普通のストーリーで進んでいくものだって。
でも、つげ義春さんの『ねじ式』※2 っていうのを読んで、ビックリしたんですよ。漫画でもこんな芸術っぽいものが出来るんだ、受け入れられるんだって。強い影響を受けましたね。


※1:「ビデオでも見ましょうか?」のコーナー
レンタルビデオ店にて蛭子さんが自腹でレンタル。都内の隠れ家にこもって観賞後、5つ星満点で採点する名物コーナー。
※2:つげ義春さんの『ねじ式』
68年に発表されるや否や、その奇異でシュールな内容が、映画・演劇・文学などにジャンルを問わずに影響を与えた漫画。98年には浅野忠信主演で映画化された。


忘れたっていいの、タイクツしなきゃ。
 
――

次は『レザボアドッグス』ですね。
 
蛭子

実は、これもあんまり覚えてない(笑)。でも、『パルプ・フィクション』とか、タランティーノは好きなんですよ。『ジャッキー・ブラウン』もおもしろかった。
 
――

蛭子さん的には、タランティーノの魅力はなんですか?
 
蛭子

とにかく、辻褄を合わせるのがすごく上手だと思ってるんです。映画観てて、「なんだこれ?どうなってんだ?」って、納得のいかない映画って、最近すごく多いんですよ。例えば、『007』とかも、アクション中心になりすぎて、「ストーリーどうなってんの?」って、辻褄合わなかったりするじゃないですか。
ところがタランティーノは、「どうなってんだ?」って疑問も解消させてくれますし、ストーリーをすごくわかりやすく作っているんですよ。そういうところですごく納得させられます。
セリフも飽きさせなくてすごく良いです。説明ゼリフじゃなくて、普段の生活で普通に取り交わされる会話で進んでいくんですね。
ジム・ジャームッシュ※3 の方がそれはもっと上手だと思うんですけど、人を楽しませようとする、「退屈させないぞ」っていう力は、タランティーノの方があると思います。ジム・ジャームッシュは、退屈しようがしまいが、とにかく自分の想い通りに作ってる気がしますよね。
 
――

で、いちばん印象に残っているシーンは?
 
蛭子

だから、全然覚えてないんですよ(笑)。もう1回観ないと全くダメですね(笑)。
俺ね、観たらその瞬間に忘れてしまうんですよ。映画っていうのは、その時間内で楽しめればいいと思ってるんです。パンフレットも買わないし…。でも、買わないと俳優の名前とか覚えないんだよね。
だから、こういう映画関係の取材があった時いつも困る(笑)。そんな時は、「取材用に観てるわけじゃねぇ!」って居直ったりして(笑)。
 
――

007の話が出たので、4本目、『007/ロシアより愛をこめて』をお願いします。
 
蛭子

007シリーズは、『007/ドクター・ノオ』が最初だと思うんですけど、俺は、この『007/ロシアより愛をこめて』を最初に観たんですよ。
これ観た時、ホントにアカ抜けた映画だと思ったんです。それまでにアクション映画も少しはあったけど、これほど、アクションシーンがズバ抜けて良いのはなかったのよ。

ところが、最近の過激な007を観慣れている目で、この『007/ロシアより愛をこめて』を観ると、なんとアクションシーンがほとんどないの。すっごい単純なアクションしかない。
だけど、これだけアクションシーンが印象に残っているのは、ストーリーがすごくわかりやすく作ってあるからなんです。アクションに至るまでのストーリー運びが丁寧に描かれているから、少しのアクションでも、大きなアクションを観た気分になるんですね。

でも、最近の007は、アクションを多く取り入れているがために、ひとつひとつのアクションが全然活きてないんですよ。ストーリーがわからないと、絶対アクションは活きない!
 
――

熱い口ぶりですね!
 
蛭子

ホント、頼むから原点に戻って欲しいんだよなぁ〜。
『ゴジラ』もそうなんですよ。『ゴジラ』はすごく幼稚化されてしまった。
昔は大人が観ても充分楽しめたのに、子供向けになってしまったから、つまんないゴジラになっちゃったの。
昔のゴジラはすごい恐かったんですよ。人を喰ったり、足でツブしたり。そういうシーンがないと、ドキドキしないよね。建物壊す時も恐かったし、今は、プラモデルを壊せばいいやって感じで、どこか簡単に見えて、おもしろくないんだよ。
 
――

ゴジラをヒーローにしちゃったんですね。
 
蛭子

そう、それがおかしいんですよ! 怪獣にヒーローなんてあるわけないんだから!そこんとこ考え直して欲しい。その点では、アメリカ版の『GODZILLA』は好きなんですよ。評判良くなかったけど、あれは恐いゴジラになってたから、俺は好きなんですよ。

※3:ジム・ジャームッシュ
1953年生まれ。NY大フィルム・スクールでの卒業製作作品『パーマネント・バケーション』が注目を集める。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』は84年のカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞し、インデペンデント映画界の寵児として世に名を知らしめた。
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