ａｆｔｅｒｓｕｎ／アフターサン

（2022年製作・イギリス、アメリカ）監督・脚本は、シャーロット・ウェルズ。
本作の父親役ポール・メスカルはアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるなど高い評価を受けた。
娘役は本作がスクリーン・デビューの新人フランキー・コリオ。

1990年代末、11歳のソフィ（フランキー・コリオ）が31歳になる父カラム（ポール・メスカル）とトルコのリゾート地で過ごした休暇。
互いにビデオ撮影したフイルムを、20年後に大人になったソフィが回想する。

ソフィの母と父カラムは離婚していて、夏の休暇にだけソフィと父は二人で過ごすらしいのだ。とても仲の良い父娘だ。
31歳の父と言えばまだまだ若く、カッコいい。

11歳の子どもの目を通して過去が語られるという形なので、ソフィはかなり「信頼できない語り手」で、
いったいカラムがなんで憂鬱そうなのか、具体的に何が起こっているのか、といったことはよくわからない。
ソフィが大人になってから、あれって何だったんだろう…と考えている事をそのまま映像化したような作品である。
たとえば、父がベランダの柵に登り、今にも飛び降りそうなシーンがある。
これは実際にソフィが撮影したビデオではなくて、想像した事を映像にして、実際のビデオに混ぜている。
（実際にそんな事があれば撮影どころではない）
観客はこれが、リアルか想像か見極めなければならない。
そして正解（父は自殺したのか。ゲイだったのか）は最後になっても語られない。

実に不親切ではないか。
そもそもがそんなに珍しい内容でもなく、リゾートではしゃぐのを見てるだけ、退屈と言えば退屈である。
途中でサジを投げるといかにもデリカシーのない単純な観客のように見えるので、ガマンして最後まで観たが、
観るからには何かを得たいものだが、何もない。
父親や母親が若い頃、何に悩んでいたかなんて知らなくとも仕方ないじゃないか。
と思うのだが、どうなんだろう？
観客に判断を委ねると言えば、聞こえはいいが、私は実際、つまらなかった。

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　これはまた何という繊細な映画。繊細過ぎて伝わらないんじゃないかと危惧するほどに。11歳になったばかりのソフィは、別れて暮らすもうすぐ31歳になる若い父親カラムと、夏休みのひと時を太陽の輝く海沿いにあるトルコのリゾート地で過ごす。映画冒頭の、ソフィがふざけて撮影する父親を映したビデオ映像が、映画の途中で撮影されたものだと分かることから、通常の時系列ではないと明らかになる。

　父親カラムは努めて明るく振舞っているが、仕事もプライベートも上手くいかず、経済的にも困窮している様子が伺える。娘を気遣って、歌のレッスンに行かせてあげようと優しく言ってみたものの、そんなお金もないくせにと娘に返される始末。賢いソフィもまた、屈託なく振舞いながらも、父親の苦境を何となく察している。それでも、リゾート地でのんびり過ごすかけがえのないひと夏を親子で満喫しつつなお、お互いを思い遣る、そんなふたりの口には出さない深い愛情が、ひたひたと胸に迫って苦しいほど。

　同じ空に輝く星は離れ離れでも一緒にいるのと同じ、そうやって私たちが同じ空の下にいるのなら、離れていても一緒にいるのと同じと言うソフィ。ふたりでトルコ絨毯の店に見学に行き、気に入った絨毯の値段を聞いて、その高額さ（850ポンド、今のレートで1６万円ぐらい）に躊躇するカラム。しかし、その絨毯はカラムによって、おそらく彼のなけなしのお金で購入され、今は結婚し、3１歳になったソフィのベッドの足元に敷かれている。

　ディナーの後のカラオケタイムに、カラムがソフィと一緒に歌うのを拒否したあたりから、何となく不穏な空気が漂い、不吉な予感がする。そして、時系列も頻繁に切り替わるようになる。離婚してエディンバラを離れたカラムは、一度故郷を離れてしまうともうそこには居場所が無くなると寂しげに呟く。エディンバラは私の故郷よと断言するソフィに、それはよかったと笑顔を見せる。

　空港で明るくバイバイとソフィと別れた後、人生に行き詰まりを感じていたカラムは、おそらく自殺したのだろう。思い出のビデオと最期のお金で買ったトルコ絨毯をソフィに遺して。その時の父親と同じ年齢になったソフィが、そのビデオで、二度と返らないあの太陽に煌めく夏を振り返った映画なのだ。父親を理解したいという願いと、父親との日々を偲びたいという想い、なぜ父親を救えなかったのだろうという悔恨の気持ちが入り混じっている。

　タイトルになっている「アフターサン」とは、日焼けの後に肌に塗る保湿クリームのことで、父を喪った心の傷を癒す映画であってほしいということなのだろう。

父親カラム役のポール・メスカルに負けず劣らず、娘ソフィア役のフランキー・コリオの演技が印象に残った。
11歳といえば、大人でも子どもでもない、ビミョーな年齢。ガキ扱いされるけど、大人がやっていることは知っている。
パパとふたりきりで夏休みに旅行とか、だんだんしなくなる年齢だけど、両親は離婚してパパは離れて一人で暮らしている、これが最後かも、と思ってつきあったのかもしれない。
いっしょにトルコへ来てくれただけでも父親的には大満足のはずなのだが、この娘、あるときは子どもらしい無邪気さ、あるときは相手に気をつかう大人っぽさの両方をみせる。ちょっとイタい父親はメロメロ。カラムは子どものころ親から誕生日を忘れられたトラウマがある。ソフィーはちゃんと覚えていて、誕生日おめでとうをいい、ホテルの客たちにフラッシュモブまで仕込んでいた。カラムの顔はひきつっていたけど。
その夜カラムはひとり泣いた。娘がかわいすぎて泣いたんだと思う。離婚したことを悔やんだのだと思う。
やっぱりこのあと自殺したのかな、カラム。「あの時、あなたの心を知ることができたなら。」とポスターにはあるけど。

長く自己満足の世界を見せられ辟易した。カメラアングルやライティングなど、心情を表現しているとでもいうような不安定さ。心に残るものはなにもなかった。

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これは何やら心に刺さった。
いろいろ確かめたくて、2回見た。
11歳のソフィが離れてくらす父親とトルコのリゾート地で過ごした夏の思い出を
当時のビデオを観ながら大人になった彼女が父への想いを馳せる話。
特に何か事件が起こるわけでもなし
特に大きな感情のうねりがあるわけでもない。
でも、なんて繊細な作品なんだろうか。
カメラワーク、音楽の使い方、ビデオの中とそうでないとき、今のソフィ
それらが絶妙に繊細なタッチで描かれている。
1回観ただけでは理解出来なかったけど
2度目でいろいろ見えてきた。

もうすぐ31歳の誕生日を迎える父親カラム。
ソフィは20歳のときの子供であることからも
彼の人生がどんなだったか想像できる気がする。
ソフィの前では明るく振る舞うカラムだが、どうも心が不安定な様子であることが
次第に画面で見えてくる。
別れた妻（ソフィのママ）も電話で心配していた。
ソフィも「ときどきパパはヘンだよ」と言っていた。
「空を見上げるのがすき、だってそこにある太陽をパパも見ているのかと思うと
離れていても繋がっている気がするから」
その言葉からもソフィはパパが大好きであったことが分かる。

何が原因なのか、何故なのかは一切の説明がないので分からないが
きっと父親はこの旅行の後で自分の命を絶ったのだろう。
そう思わせるシーンが2度目の鑑賞で見えてきた。

「きみは生きたい場所に行きなさい、なりたい人間になりなさい、時間はある」

この言葉は、自分がそうしたくても出来なかった後悔の念が込められていた。
一人部屋で慟哭するカラムの背中。そこにはソフィ宛ての遺書のような手紙があった。
旅行最後の夜、踊ろうとソフィを誘う父。
クイーンとデビッドボウイが歌う「アンダープレッシャー」の歌詞が
父親の心境を表していて心に刺さった。

これが最後のダンス

ラストはビデオカメラをおろして、廊下の先のミラーボールの部屋へと消える父。
それは父がもうこの世にはいないということを暗示しているシーンなんだろう。
じわじわと余韻が残って、どうにも泣きそうになった。