福田村事件

森達也監督の初の劇映画。脚本は佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦。
クラウドファンディングで資金を集めた。

扱いが難しい題材だし、レビューもどう書いたらいいのか悩む。
「福田村事件」はちょうど100年前に実際に起きた事件だ。
関東大震災の5日後、千葉県の福田村で自警団を含む100人以上の村人により、被差別部落出身の行商人ら9人が朝鮮人と間違えられ殺害された。

この事件には、朝鮮人差別と、被差別部落への差別、そして、「デマ」によって恐怖を増幅させ集団心理が暴走した村人、
さらに大正デモクラシーなど不安定な世情が背景にある。
では細かく見ていこう。

【なぜ、間違ったのか】
香川からきた薬の行商団は、言葉になまりがあり、部落出身という事もあって何か言われてもいつもは反論しないよう自制していた。
村人はそれを朝鮮人だと思い込み、もらった朝鮮扇を使用していたため確信した。

【なぜ朝鮮人なら殺すのか】
関東大震災直後、朝鮮人が井戸に毒を入れたとか、放火してるとか。流言飛語が蔓延した。
それは、日本人が朝鮮を統治していた時代、朝鮮人をひどい目にあわせたから報復される
という気持ちがあったからだろう。彼らならやりかねんという恐怖があったらしい。
上層部まで自警団を組織して村を守れという通達を出す。
さらに当時の新聞社まで、事実はともあれ「朝鮮人の仕業なのか？」と扇動する記事を書いた。

なので、日本人が朝鮮人を殺した事実は各所にあり、まちがって中国人やろうあ者が殺された事件もあったそう。
福田村事件はそのひとつである。
（一方、川崎では、朝鮮人に見誤られた日本人の虐殺があったが、他方で土木の親方たちや助役らが暴徒を制止し、
朝鮮人を保護した事例がある。）（なんだかメチャクチャですな・・）

さて、薬の行商団一行が今にも暴徒の手にかからんとした時、「ちょっと待て」と
止めた人間がいた。彼らは日本人じゃぁ言うのである。それを聞いて一瞬トーンダウンしたのに、
薬のリーダー（永山瑛太）が、
『朝鮮人だったら殺されてもええんか！？』と叫ぶのである。
いや、瑛太さん、せっかく日本人だよと言ってくれたのに・・。
そこへ若い奥さん、この人は赤ちゃんを連れていたが、夫が東京で殺さたかもしれないと聞かされ
もう不安でいっぱいだった。大声に刺激されたのかツカツカと瑛太のそばへくると・・（あとは本編にて）

人間が前後の見境がなくなるのは不安や恐怖、他への追随（群集心理）があるからだろう
森監督が言いたいのは『朝鮮人だったら殺されてもええんか』という事らしいので、
簡単に人の言葉に乗ったり、根拠のない話を信用するなという事らしいが、人間心理についてはまだ研究中の面もあるらしい。

ところで森達也は、何冊も戦争関係の本を出版しているけども、私個人的にはどうも
よくわからないのですね（１冊しか読んでませんが）。なのでまったくこのレビューには自信ないです。

そして映画として評価した場合、それぞれの役者さんたちは力演ですが、
エンタメとしてテンポが悪い感じがします。関東大震災では千葉だって甚大な被害を受けたはずですが、
描写は少なめでアレ？と思いました。
いかにも正義感のある女性新聞記者さんですが、（大正時代にホントにいるのかなーとちょっと興ざめでした）

そして、ムダなエロが多すぎませんか？（日活ポルノ出身のスタッフでもいるのか）
ジジイの顔面にオッパイグリグリ？（東出昌大は田中麗奈のパンティひっぱがす程度です）
たしかに、夫が戦争で留守のあいだ、義父と嫁が、は、ありそうな話で私は否定はしない。
エネルギーやパッションがあふれる時代だ。
でもそんなんばっかり、ちょっと長いよ。
いや、人間の「弱さ」を忘れてはいけません。
１００年前にはなかったが、今、我々の心をむしばむモノ。
考えさせられます・・。

本作の中盤までは千葉の片田舎の風景、風俗を堪能する
岡山の八つ墓村の元ネタとなった事件も似ているが、当時は夫婦以外でもある意味"寛容"な時代
それが一度、朝鮮人の襲来というフェイクニュースが蔓延すると村人は牙を剥く
良識を持った人たちのなんと脆弱なことよ
この事件は被害者が被差別部落出身者であったことが余計な雑音(?)ともなってしまう
"実録もの"だけに変な改編は出来なかったと思うが、テーマがややボケた気がしないでもなかった
ただ、問題作であることは確かだ