キリング・ミー・ソフトリー

　ヒロインのアリス（ヘザー・グラハム）には同棲して間もない恋人がいる。夜テレビの前でサッカーの試合にかじりついてたり、日中に電話してきて用事を言いつけたりと、すでにしてオヤジ夫ぶりも見られるが、朝の出かけに背中のファスナーを上げてくれる人。ベッドで「どうして欲しい？」と聞いてくれる人。きっと結婚したら日曜日に庭の手入れをし、ホームパーティでお肉を焼いてくれるんだろうなぁ、と思わせる男。ビジュアルは薄いラッセル・クロウ。

　ところが、彼女は出会ってしまったのだ。ハンサムで超有名人で情熱的なセックスの神様ことジョセフ・ファインズに。３拍子も４拍子もそろっちゃっててゴメンネな男ざんす。こりゃもうメロメロ。
　アッという間に不思議の国ならぬ愛欲の世界に落ちこむアリス。彼女が親しい友達も身寄りもいないというところが要。こういう恋愛にハマった時に忠告してくれる人が周りにいなかったんですね。
　だいたいお金や名誉の類というもんは人格の担保になるのか、それらがたっぷりあると理性やモラルを捨てやすくなる。ハイクラスの方々のお楽しみが変態道まっしぐらなのは「アイズ　ワイド　シャット」でも紹介されていた（？）。

　庶民クラスの身近な友人なら、こういう男に危険信号を敏感に感じ取ってくれていたハズなのだ。ブリジット・ジョーンズの友達、シャロンやジュードなら絶対に（いや、けっこう一緒に浮かれポンチだったかも）。甘く危険な香りの向こうにはどんな落とし穴があるのか分からない。そうなった時に自分の身を守りきれるだけの金も権力も無ければ、失うものなど何も無いと言いきれるほどのガケッぷちでもない中産階級は、「セレブなんてロクでもない連中よ」と深入りを避けるのが賢明とされる。世の中の常識や秩序というものは、こういう大多数の庶民のおせっかいな善意と無遠慮なやっかみのおかげで保たれているもんだ。

　しかし。幸福になれる率が相当に高そうなバリバリ良き夫仕様の恋人が、危険度低くて透明度高い分、先がすぅぅ〜っと見えてしまう、その寂しさよ。安全って退屈。で、アリスは新しい男に走ってしまう。　
　こういう時、イイ女は大胆になれるのだ。危険が快楽をしょって近づいてきたとき、賭けに出てもリスクが最小限に抑えられるのは絶対に美女だ。ブスの場合、ウハウハ近づいてケガでもしたら、いいモノ笑いの種になってしまう（上手く行ったら行ったでブーイングの嵐）。その点、美人はどっちに転んでもシンデレラか悲劇のヒロイン。本人もきっとドラマチックなことに身を投じることはゴージャスな我が身にふさわしいとでも思ってるに違いない。ふん。

　で、めくるめく愛の日々がはじまったある日、アリスのもとに謎の手紙が届く。「彼の正体を知ってるか？」と。言われてみれば気になる鍵のかかったタンス、彼女を襲った暴漢をふん捕まえた時の彼のキレっぷリもタダごとじゃなかった。糸ひきそうなネチョい上目遣いだってフツーじゃないぞ、ってこれはジョセフ・ファインズ本人の問題か。
　ともあれ、だんだん疑心暗鬼になっていくアリスなのだが、「人間は見るもの聞くものすべて自分の心の投影」と心理療法家パールズが言うとおり、恐ろしくも不思議なのは、こういう人の心なのであります。

　　幽霊の正体みたり枯れ尾花

　すすきが幽霊に見えてしまうのは自分の恐怖心が原因、果たしてジョセフ・ファインズはネチョいすすきか？という心理サスペンスになっていくのですが…。

　真実をつきとめるためにアリス自ら調査に乗り出したり、一応、人も死んだりする。
　
　でもでも。

　やっぱり私は恋愛映画として楽しんでしまった。恋する女のバカさ加減もよく描かれている。「洋服の趣味も変っちゃったのよ！」っていきなりチャイナ・ドレスときたもんだ。そりゃ変りすぎだろ。でも、分かる、分かる。元カレのその後も含めて後日談なんぞも、「それってあるよな〜」と遠い目になってしまう描写。「ナインハーフ」的な男と女のスケッチとしてイケてるのではないでしょうか。
　恋愛映画はファッション雑誌を見る楽しさがある。素敵がいっぱいでマネしたくなるのだ。って、スカーフ・プレイは遠慮しときますがね。

傑作「覇王別姫(1993)」の陳凱歌【チェン・カイコー】の監督作品と聞いて観た。

アリスが男を乗り換える描写はよくできている。男も女も、相手にミステリアスな部分が多いほど執着するものだからだ。だから「正直で素直」なんて性格の人間はすぐ飽きられる。「マッチポイント(2005)」のクロエなんか好例。アリスは退屈だったんだろう。又はミステリアスな男に対してうぶだったか。

男を乗り換えてからはミステリアスの世界にどっぷりつかって、経験したことの無いソフトＳＭの目くるめく世界。そりゃ夢中になっちゃうだろう。で頭がぼーっとしてるところに疑惑が発生。ようするにアリスはアダムを一度も冷静に観察したことが無いまま婚約まで行ってしまうのである。プロポーズはアダムが暴漢を殺した直後だよ。（あれは確実に死んだだろう）そんな時に一生の重大事を判断できますか？この子は現実を分析する能力が著しく欠如している。

そして疑惑がグングン加速していく。この辺はテンポよくサスペンスの味付けも効いている。アダムがアリスに「昨日君を探して会社に電話したけどいなかったな？」から始まる一連の質問をする。息詰るシーンだ。私も家内によく聞かれる。息が詰まる。アダムが最後に「ただ君が何をしているかすべて知りたいんだ」と言う。私もよく言われる。我が家にはプライバシーというものは無い。クレジットの請求書まで開けられる。そういう時に嘘をつかなければならない夫婦関係と言うのはすでにおかしいのだよ。アリス、そこにまず気がつかないかね。そしてアリスが裸足で家を飛び出す。ハダシ＝遠くにいけない、はらはらする。

結局、アダムの言ったことはすべて本当のことだった。
「激しい恋は燃え尽きるのが定め」これは最後のエスカレーターの所の日本語字幕だけど、英語ではまったくそんなことを言っていないが、珍しくこの日本語字幕はよかった。この映画はちょっと綺麗でちょっと世間知らずの若い女性の「壊れた愛の物語」である。綺麗な子だから一回は観てあげるけど、二回は観ないぞという映画。音楽はかなり良かったね。チェン・カイコーらしいが出ていたかというと、よく分からなかった。

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私の世代だとこのタイトルでロバータ・フラックの「KILLING ME SOFTLY WITH HIS SONG」を思い出してしまう方も多いのでは。私は洋楽の造詣はほとんどないが、なにしろネスカフェのCMがものすごく印象的だった。

↓ここからいきなり≪ネタバレ≫注意↓


エキセントリックでアブナイ男に愛されすぎた女の恐怖。
それがおおまかに正しい見方なのかも知れないが、私は女のほうがアブナイ奴に見える。
「私は情熱に我を忘れて、相手の過去を知ろうとしなかった」って違うじゃん！十分知ろうとしてんじゃん。それもこそこそと。いくら夫婦だって、鍵のかかった扉を開けたりしちゃだめでしょー。相手の過去を知りたかったらまず相手の話に耳を傾けるもんじゃないのか？今までも男と付き合い始めたらまず相手の引き出しを探ることから始めたのか？
そんなふうに思うものだから、アリスの恐怖が全然我がことのように迫ってはこなくて、「あーあ」って感じで鼻ほじりながら見た。
セックスだけは一人前以上だけど、恋愛発育不全のオトメの物語。
ジョセフ・ファインはセクシーでいい役者だと思う。ヘザー・グレアムは脚がすごくきれいだし、あの嘘のような童顔が精神的オトメの役にぴったり当てはまっていた。
特典は、メイキング、陳凱歌インタビュー、ヘザー・グレアムインタビュー、ヘザー・グレアム＆陳凱歌来日コメント、予告編集、キャスト／スタッフ。
吹替え担当、清水馨、小杉十郎太、田中敦子、他。

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前半は官能小説のような展開。
遭ったその日に恋人もいる筈なのに関係をもってしまいます。

後半はサイコキラーから逃げ回るサスペンスとなっています。
わざわざアジアの大御所を迎えての鼻息の荒さを感じますが、
中身は今ひとつです。

ヘザーの裸身は美し過ぎます。
後半のサスペンスより中盤のＳＭシーンのほうが盛り上がって
ますので、いっそのこと官能美を追求した作品に絞ったほうが
作品の完成度が上がっていたのに、残念です。

登山事故の犯人は結局「闇の中」でしたね。
ちょい消化不良気味です。

ソフトＳＭチックなラブサスペンスだと思って手を伸ばしましたが、シーツでクビを軽く絞めるくらいでした。このふたり物凄く簡単な理由で恋に落ちます。こんな事で恋に落ちるなら、私はモテモテでは……いや、そんなことはないか。恋に落ちたかと思うと、男の性格急変します。ＳＭしたがりさん、いきなり全開です。前半は良い雰囲気のふたりです。うらやましくなるほどラブラブ、Ｈしまくり。なのに後半、女は急に男を殺人犯と思いはじめるし……このふたり何事も急展開、性格破綻しすぎ。適度に裸があるから見られましたが、直球な内容だけにサスペンス度は低く感じました。女は男で変わると劇中でも言っていますが、変わりすぎのふたりでした。でも、前半しまくりのふたりはいいです。